翠の瞳にうつるもの

どこかの誰かの心に残るものを書きたい

(レビュー)『戦場のおくりびと』ミリタリーアクション映画の、その先。

U-NEXTで色々な映画・ドラマを観る。思わぬ所で面白い作品を見つけて気分が上がったり、逆に期待したけどガッカリもしたり。
すっかり在宅仕事のお供になっている。

今回は、派手さは全く無いが引き込まれてあっという間に終わってしまった・・・そんな作品について書いてみる。

『戦場のおくりびと』(2009)監督:ロス・カッツ|主演:ケヴィン・ベーコン

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観ていない方は以下ご注意。ちなみに現時点でU-NEXT独占配信である模様。

 

ストーリーの大筋

アメリカ海軍のマイケル・ストロボル中佐は、内勤の軍将校。ある日の戦死者リストに自身と同郷の若者を見つけ、遺体を彼の家族のもとに送り届ける護衛任務に志願する。
整えられた遺体を納めた棺と共に行く旅路の中で、ストロボル中佐は様々な人々と関わり、自身の懊悩を見つめていく。

 

感想

多くのミリタリーアクション映画で、仲間が戦死する展開があると思う。彼らは棺に納められ、本国へと帰る。この映画は、その先にあるドラマを描いている。

静かな哀しみが取り巻く美しい作品だな、と思う。
物語に緩急はほとんど無い。ただ、戦死した軍人に関わる人々が、敬意と哀悼をもって自身の務めを行う姿がそこにある。
中佐を始め棺の護衛任務を行う軍人はもちろんだが、他にも・・・

遺体や遺品を清める担当者、死者に応じた軍の正装を作る縫製員、空港までの運転手のバンドマン、空港で対応した職員、飛行機の機長や添乗員、貨物搬入現場の作業員たち。

それぞれが自分なりの形で、戦死した一等兵への気持ちを表現した。それは軍隊を持つ国の人ならば当然の行動かもしれない。けれど私には、護衛する中佐の立ち振る舞いが、より一層の棺への敬意を喚起したのだと見えた。そう思うほどに、ケヴィン・ベーコンの演技は静かで、張り詰めて、美しい。


中佐は、自分が前線から退いたということを負い目に感じている。だから日頃の任務でも前線経験者と真っ向から対しきれないし、戦死兵に対する人々の振る舞いに対してどこかまっすぐに受け止められていない というように思えた。
後半、その彼が棺に向かい一筋の涙を流すシーンがある。
そこでようやく、ストロボル中佐は自分の負い目を超えて「やるべきこと」に気づけたのかもしれない。
これからも同僚や上司との壁はなかなか消えないだろうけれど、前線の兵士とは違う形で、自分なりの戦いをしていくのだろう。